ダウンコンバート


ダウンコンバータ(降圧)を作ってみます。

例題として12Vを5Vに降圧することを考えてみます。ここでは自作に適したように非絶縁タイプで考えてみます。


考えられる方法にはいろいろありますが、

  1. シリーズレギュレータで降圧する
  2. 専用ICを利用する
  3. スイッチングレギュレータICを利用する
  4. スイッチングレギュレータICを利用する その2
  5. ディスクリートで組む
方式 特徴 欠点
シリーズレギュレータ 超簡単(三端子レギュレータ使用)
低ノイズ
効率が超悪い
比較的簡単(ディスクリート)低ノイズ
専用IC(HPH12002M) 簡単、外付け部品少ない
なんとコイルまで内蔵している
結構でかい
秋月電子では以前から売っているが、やはりいつなくなるか不安
汎用スイッチングレギュレータIC(TL497) 比較的簡単
外付け部品そこそこ少ない
出力電流のブースト可能
HPH12002Mよりは小さいがICが少し大きめ
安くはない(けど高くもない)
汎用スイッチングレギュレータIC(NJM2360) 比較的簡単
外付け部品も結構少ない
出力電流のブースト可能
8ピンDIPで小さい
電圧制御がオンオフ方式なのでノイズが幾分多め
ディスクリート構成 自分で設計するのでなんでも可能 回路設計が必要
製作も面倒
部品点数も多め


シリーズレギュレータ

imageimageimageimage

ここまでの解説でシリーズレギュレータについてはおわかりでしょう。入出力間の電位差はそのまま熱にして捨ててしまう方式ですので効率は悪い悪い。今回の12Vから5Vへの変換の場合なんと約40%の効率ということになります。でも回路は簡単です。出力の電解コンデンサは省略できません。高域で上昇するインピーダンスを下げるためにつける必要があり、これがないと発振します。

image

シリーズレギュレータは基本中の基本ですから自分用回路ライブラリとして記憶しておく必要があるでしょう。

・ディスクリートで可変電源を作る

可変電圧はLM317あたりを使うと簡単に作れますが、1.2V以下にすることは簡単にはできません。LM317のデータシートに応用として回路例が載っていますが、マイナス電源が必要だったりして手軽ではないです。そこで簡単に作れるシリーズレギュレータ回路を以下に掲載します。ディスクリートといってもオペアンプを使っておりますが・・・。(本当にディスクリートでというならオペアンプを差動増幅回路に置き換えればOK。でも面倒くさいし、オペアンプを利用した方がコストも遜色ありませんし、性能はずっといいものが作れます)

オペアンプの反転入力につながる分圧抵抗の比は出力したい電圧の範囲と非反転入力につながる基準電圧源の電圧との兼ね合いで決めます。ここではTL431が約2.5Vの出力なので、最大10Vの出力が可能になっています。もっと高い電圧を出力したければ、例えば20Vまでなら30kΩを70kΩくらいの値にすれば(そんな抵抗値は売ってませんけど)OKです。またFETのソースにつながる抵抗とトランジスタで電流制限をかけていますので、制限をかけたい電流値にあわせて抵抗の値を変えてください。またオペアンプはここではLM358を使っていますが、片電源用もしくはレールtoレールタイプを使用します。


正負のトラッキング電源としたいなら正出力と負出力の中点電位が0Vとなるように制御すればよいことになります。オペアンプの反転入力に正出力と負出力の中点電位を接続し、非反転入力はGNDに接続すればOK。あとはだいたい正出力側回路の対照回路みたいな感じ(例えばFETは2SJxxxを使うとか定電流ダイオードの向きは逆(オペアンプから電流が流れ出る方向)にするなどすればよいことになります。なお、出力電圧範囲が狭くなってしまうのでツェナーでレベルシフトするとよいでしょう。


専用ICのHP12002Mを利用する

image

秋月電子ではHP12002Mという新電元製のスイッチングレギュレータ用HICを売っています。一個200円とそこそこの値段で、2Aまで出力できるのでなかなか使いでがありそうです。コイルまで内蔵しているし、ボディは放熱器になっているし、何の手間もいらない便利もののようです。少々でかいですが。説明書通りに接続すればすべて完了というお手軽さは何にも代え難い魅力です。

image

あー、簡単。外付けは出力電圧設定の抵抗とコンデンサだけなんて、なんて楽なんでしょ。でもこれでは勉強にはなりませんし、いつまで秋月電子で販売するかなんて何の保証もないです。とはいってもここ数年ずーっと品切れもせず店頭に並んでいるので入荷も現在のところでは順調なんでしょう。便利回路のライブラリにする価値はあります。

でも説明書には出力電圧範囲8V〜20Vとあるし、かわら版にもそうなっています。ところが以前のかわら版には+5V以上出力可能って手書きで注釈がついてました。いまのかわら版にも小さく+5〜24V出力可能ってなっています。いったいどれが本当なの?


TL497を使う

image

TL497は200円くらいで売っていて入手性もよくアップコンバータにもダウンコンバータにも使える便利なスイッチングレギュレータICです。

データシートに記載されている回路がズバリ使えます。

電流ブーストしない場合(TL497内蔵トランジスタを利用する場合)の回路はこれです。HP12002Mより多少部品が多いですが、実装面積は少なくてすむかもしれません(それだけHP12002Mはでかいんだよ)。

image

ではデータシートにある式を使って各定数を計算してみます。

発振用コンデンサの容量の決定

C=12×ton[pF]

よりtonは25〜150[μs]の範囲で選択するように指示がありますから、仮に100位として

C=1200[pF]

となります。近いところで1000[pF]としましょう。したがって、

ton=83[μs]

となります。したがって発振周波数は約12kHzということになります。可聴帯域なのがちょっと気になりますが、ま、いいでしょう。

ここでデータシートにあるIPKを計算します。出力電流IOmaxはここでは200mAとすると(本来は用途で決まるのですが)、

IPK=2×IOmax

  =2×200mA

  =400[mA]

です。したがって、使用するコイルは

L[μH]=((VI-VO)/IPK)×ton

    =(5/0.144)×83

    =1450[μH]

ですが、Lは50〜500[μH]の間で選べとありますから、ま、100[μH]とでもしましょう。

R1=VO-1.2[kΩ]

  =3.8[kΩ]

こんな半端な値の抵抗はありませんから半固定抵抗でも使って調整する必要があるようです。

RCL=0.5/IPK

  =0.5/0.4=1.25[Ω]

これは過電流保護のためのもののようです。これらの部品を回路図通りにつなげば希望通りの電圧が出力されます。簡単です。しかしあいかわらず勉強になりませんが、ICの入手性も良好なので自分用回路ライブラリとする価値はありそうです。


NJM2360を使う

NJM2360は150円くらいで売っています。入手性はそれなりのようですが、アップコンバータにもダウンコンバータにも使える便利なスイッチングレギュレータICです。しかも内蔵トランジスタは1.5Aまでのスイッチングができるのは便利です。

データシートに記載されている回路がズバリ使えます。

image

ここで出力電圧は右端の抵抗2本による抵抗分圧値が1.3Vになるように設定します。ダイオードはショットキーでなくてもかまいませんが、変換効率が低下します。入力の0Ωは過電流保護のためですが、ここでは0Ωとして使っていません。Ct端子のコンデンサは発振周波数を決定します。

たったこれだけでかなりの電流値まで使えるのですから便利です。


ディスクリートで組む

image

では勉強の意味を兼ねて、ディスクリートで組んでみましょう。ただし発振回路は面倒なのでNE555(LMC555)を利用します。発振回路をディスクリートで組む場合は無安定マルチバイブレータなどにするか、HC14などを利用した発振回路にするのもよいでしょう。昇圧回路と違って電源電圧の不足に悩む必要がないのはいいことです。

まず基本の回路を示します。発振回路さえあればトランジスタ(FET)、コイル、ダイオード、コンデンサだけで昇圧はできるのです。ただこのままでは出力電圧が何Vになるかは負荷によって変わってきますから、さらに回路を追加して電圧を安定化したりします。基本的にはトランジスタをスイッチとして使用して、必要な電力のみを供給し、LCフィルタで平滑化するだけです。

image

そこでこの回路の発振部をLMC555に置き換えて、電圧安定化回路を組み込んでみたのが、次に示す回路です。電圧安定化といっても出力電圧を抵抗で分圧してそれがトランジスタのVBEと比較しているだけです。出力が高くなるとVBEより高くなるためトランジスタがオンします。するとFETスイッチもオフするので出力が安定化されるという仕組みです。

image

回路の変換効率にはコイルの直流抵抗、FETのオン抵抗、FETのオンオフに要する時間、発振回路のデューティー比、周波数などが関係してきます。もちろん効率を気にするならダイオードはショットキーダイオード(順方向電圧降下が小さいのでロスが小さくてすむ)を使用してください。また発振周波数が高い場合は普通の整流ダイオードでは役不足になる場合があります(スイッチングスピードが遅い)。

降圧の場合にはシリーズレギュレータが使えて、回路ももっとも簡単で済むためほとんどのケースではシリーズレギュレータを使うのがよいと思います。でも消費電力を気にするとかというケースではスイッチングレギュレータを使う必要があるでしょう。そんなときにちょこっと使える回路を知っておくのは大変よいことだと思います。勉強にもなります。

スイッチングレギュレータを入出力絶縁タイプとして作るのはトランスを巻かないといけないのでアマチュアには困難です。仮にトランスを巻いたとしてもトランスの巻き方が変換効率に影響してきますので、市販品を買ってきた方が手っ取り早いし効率もよい。その後の消費電力によるコストを考慮すればむしろ安上がりともいえるわけですから、(トランスを自分で巻くのは)実用的ではありません。ましてやたった1つを発注するのはスイッチングレギュレータを買ってくるより高くつくのはいうまでもありません。アマチュアは非絶縁タイプでとどめて置いた方がよいようです。

本当は電源ってむずかしいんです。電源のトラブルはすべての回路のトラブルの源なんですよね。